2022年御翼7月号その2

 

解説 佐藤 優『人生、何を成したかよりどう生きるか 内村鑑三』(文響社)より

 この地球に何かメメント(形見、思い出の品)を遺したい、この地球を愛した証拠、仲間たちを愛した記念碑を置いていきたい、という意味での「歴史に名を遺したい」という気持ちがあります。何か一つ事業を成し遂げて、私たちの生まれたときよりも、この日本を少しでもよくして死んでいきたいと思いませんか。
 後世へ遺すのに、一番大切なもの、それはお金です。子どもに遺産を遺すだけでなく、社会に遺すということです。しかし、そういうことをキリスト教徒に言うと、お金を遺すというのは、非常にくだらないことだと言われてしまいます。お金を遺すという考えをいやしいという人は、その人自身がいやしい人だと思います。お金が必要であることは、みなさんも十分に実感されているだろうと思います。私に金など要らないと言った牧師の先生は、後で聞いたところ、実際にはずいぶんお金に執着していたのだそうです。
 お金などいつでも手に入れられるというのは、よくある考えですが、実際お金が必要になってから、手に入れようとするのは非常に難しいものです。財産を築くということは、神様の力を借りるくらいのことがなければ、並大抵の思いや努力ではできないことなのです。
 財産を築くというのは大事業です。今日の問題は社会問題であろうと、教会問題であろうと、青年問題であろうと、教育問題であろうと、究極的にはお金の問題です。それなのに、お金が不要などと言うことはできません。キリスト教徒のなかに、事業家で資産家の人が現れればありがたいし、キリスト教の志をよくわ かった人が、私たちの後ろ楯(だて)になって、金銭的に支援してくれるのは大変重要なことです。ですから、財産を後世に遺そうという志を持っているなら、その志に従って、神が与えてくれた方法によって、子孫にたくさんお金を遺してほしいと、私は切実に願っています。
 ところが内村鑑三は、その著書『後世への最大遺物』の中では、「金、事業、思想 これらは大切であるが、最大の遺物とは言えない」と記しており、真の最大遺物は「勇ましい高尚なる生涯」だと言っている。それは、この世は神が支配する世の中だと示す生き方なのだ。


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