2020年御翼2月号その2

         

神の導きに流されて生きる ―― 柏木哲夫医師

 クリスチャンの精神科医・柏木哲夫先生は、日本で初めてホスピスプログラムを始めた方である。淀川キリスト教病院のホスピス長を経て、大阪大学人間科学部教授、退官後は金城学院大学学長、80歳となった現在はホスピス財団理事長として、淀川キリスト教病院の相談役も務めておられる。一九九四年日米医学功労賞、一九九八年朝日社会福祉賞、二〇〇四年保険文化賞、二〇一六年ヘルシー・ソサイティ賞受賞。
 そんな先生が自分なりに人生の設計図を描いていたのは、医学部の学生時代が最後であったと言う。「医者になり、結婚をし、留学をし、研究者になり…。人生八十年を振り返ってみると、設計図には全然なかったことの連続でした。私の人生を大きく支配していたのはキリスト教との出会いでした。二十五歳の時に洗礼を受けてからは、自分の人生を自分で設計するという感じではなくなりました。与えられた道を進むというか、私の知恵を超えた流れ―― 言い換えると神が創られた流れ―― に流されるという人生を送ってきました。
 こう書くと、かなり受け身的な人生と取られると思いますが、流れに乗るかどうかは主体的に判断し、流れに伴う困難を覚悟するという点では、能動的な側面ももちろんあるわけです」そして、柏木先生は、「任せる、ゆだねる」について以下のよう言う。「人生には、自分の力や努力ではどうにもできず、だれかに任せたり、ゆだねたりする以外に道がないことが起こります。…日常生活では、『任せる』はよく使いますが、『ゆだねる』はあまり用いません。『ゆだねる』を辞書で引くと、『すっかりまかせる』とありました。『ゆだねる』のほうが、『任せる』よりも徹底しているのかもしれません。クリスチャンはよく、『神にゆだねる』と言います。『神に任せる』とはあまり言いません。…『任せる』相手は人間が多いようです。これに対して『ゆだねる』という言葉の場合、ゆだね先は神が多いようです」と。
 柏木先生のクリスチャンの知人が、会社の都合で退社せざるを得なくなり、つらい思いをした。ところが半年後、新しく就職した職場で、自分の能力を十分発揮できる部署が与えられ、とても感謝しているという。神様は流れを創られたり、止められたりする。「神のなさることは、すべて時にかなって美しい」(伝道者の書3・11)というみことばがあるが、その時には「なぜ、こんなに悲しいことが起こるのだろう」と思ったことが、後になって良い結果につながることが、人生には存在するのだ。これが聖霊のお導きであり、その恵みを体験した者が、隣人に愛の配慮ができる自由を持つのである。
柏木哲夫『人生 人として生まれ、人として生きる』(いのちのことば社)より


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