2018年御翼6月号その3

                           

内村鑑三の宣教師嫌い

 内村の宣教師嫌いは有名である。中には彼の敬愛する宣教師もわずかにいて、エステラ・フィンチ(Estella Finch―日本帰化名・星田光代)はその一人であった。その理由は、
① 超教派独立伝道
内村が宣教師を嫌う最大の理由は、彼らが「大抵はキリストの基督教の宣教師ではなくて、在る教会即ち教派の宣教師である」ことである。内村は、フィンチがどこの教派にも依存しない独立宣教師であることを高く評価していた。内村は、「米国人より金銭を受くるの害」(一九二四)の中で、「米国に有るものは金である。金を除いて米国に有るものは殆ど無い」と言って、米国の金銭崇拝主義を非難している。伝道義会は、何れのミッショナリーにも属せず、一切の費用は日本各地の協力者や、フィンチの内外の友人などの寄付による運営であった。

② 日本への献身
フィンチの愛国心は明治天皇に対する敬意としても表われている。フィンチは、新聞に皇族の写真が載ったものがあると、それを全部切り抜いて自分の祈りの部屋に貼った。そこで皇族のためにお祈りもしていた。明治天皇の御聖徳に感激されて、「素晴らしいエムペラーである」と、非常に傾倒し、それで明治天皇の時に帰化した。「凡ての人、上にある権威に服(したが)ふべし、そは神によらぬ権威はなく、あらゆる権威は神によりて立てらる、此故に権威にさからふ者は神の定に悖(もと)るなり」(ロマ書13・1・2)との聖書の言葉に基づき、「君主国として日本は聖書に照らして理想的国家である」と言っていた。

③ 伝道方法
彼女は決して宣教大会や伝道集会のように大人数を集めて行うのではなく、一人一人を大切にする少人数方式の極めて日本人に合った方式を採用していた。フィンチの伝道は極めて地味で、一人の魂を重んじて愛と祈禱をもって教え導いた。彼女の伝道方法は大勢の人を浅く広く教えるのではなく、ごく少数の人を深く教え、深くその魂を愛する方法だった。清い軍人を理想とし、彼らをあらゆる誘惑から救おうとして、絶えず祈り、愛をもって彼ら信仰に導いた。しかし、決して感情的に訴えることなく、信仰を強要することもなかった。良心的反省を与え、自由の道を歩ませた。

堤 健男『クリスチャン海軍生徒― 海軍機関学校と日本陸海軍人伝道義会―』より

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