2017年御翼3月号その3

                           

ハロー・キティはコピーで、好きになれない―― ディック・ブルーナ

 二月十六日、ミッフィーの生みの親、オランダのクリスチャン絵本作家ディック・ブルーナ氏が、89歳で老衰のため天に召された。53年前、幼い息子を喜ばせようとして描いた白うさぎの物語が、こんなに有名になるとは、ブルーナ氏は思ってもいなかった。ブルーナ氏が出版した絵本は120冊以上、50数カ国に翻訳され、世界中で8500万部が売れている。単純な線で描く技法は、南フランスの教会にあるマティスによるステンドグラスからインスピレーションを得ているという。登場人物が必ず正面を向いているのは、「相手に対する時は必ず真正面から対応することが大切」というブルーナ氏の主張である。
 世界的なキャラクター、ミッフィーは貪欲な金儲け主義から生まれたものではない。ブルーナ氏が作品を著作権で保護しようとしたきっかけは、彼の描いたテディベアのイラストだった。一九七〇年代、イギリスのレース好きの青年貴族、アレクサンダー・フェルマー・ヘスケス卿がそのイラストを気に入り、彼の所有するヘスケスF1レーシング・チームのマシンにテディベアのイラストを貼った。作者のブルーナ氏は、「もし車が大破したらどんな印象を残すだろうか。あのテディベアは子どもたちのために描いたのであって、そんなことのために描いたのではない」と、会社を立ち上げ、弁護士を雇い、自分のイラストを著作権で守ることにした。こうして、ブルーナ・ブランドが生まれた。
ブルーナ氏の絵本は、必ずハッピーエンドで終わる。そして、“人生にはいつも続きがある。たとえどんなに悲しいことや辛いことがあっても乗り越えて欲しい”と語りかけている。その原点は、16歳の時の戦争体験である。裕福な家庭だったブルーナ家も、オランダが第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに占領されると、家をドイツ軍により奪われてしまう。占領下、辛い体験をしても、必ず状況は良くなるという希望があった。
 究極のハッピーエンド絵本が、死を題材にした『ミッフィーのおばあちゃん』である。おばあちゃんが死んで、ミッフィーも家族皆も泣いている。でも、最後の場面で、おばあちゃんのお墓に行き、ミッフィーが「おばあちゃん」と言うと、「おばあちゃんが本当に聞いているような気がしました」で終わる。おばあちゃんは復活して神の国にいることを表わしている。
二〇〇八年に行われたインタビューで、唯一、ブルーナ氏が表情を曇らせたのは、日本のハロー・キティに話題が及んだ時である。「あれは、(ミッフィーの)コピーだと思います。全く好きになれません。『そんなことをするものではない。自分で考え出したことをしなさい』と言いたくなるのです。そして、すぐに明るい表情を取り戻し、「世の中には、素敵なことがたくさんありますよ」とブルーナ氏は語った。
彼は、政治的なことは何も分からないと主張する。ブルーナ氏は、「自分を本当に子どもであるかのように感じている。どうしたって分からないことがたくさんあるのだ」と言う。複雑なことは絵本にはできないと言いながら、死についての絵本は書いている。それは、人間として最も重要な霊的な問題について、信仰により解決を得ているからである。
 「良い絵が描けた時、帰宅したときに、天に向かって『ありがとうございます』と言うことがあります。そして、あまりうまく描けなかったときは、天に向けてこぶしを振り上げ、『ちょっとひどいんじゃないですか』と言ったりします」とブルーナ氏は語った。 
 神からアイデアや発想を与えられて、作品を描いていたのだ。だから模倣などではなく、大胆に自分のオリジナル作品を生み出せた。信仰により、死の問題も解決していたので、真の笑顔でいられた。そんなブルーナ氏のことを、ある人は、「太陽のように温かな人」と表現した。

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