2012年御翼1月号その3

「あしあと」という詩

 カナダ人のポール・パワーズは、7歳のとき母親を亡くすと、父親から「男は泣くもん じゃない」と殴る蹴るの虐待を受け、入院した。「二度と泣かない」と誓ったポール は、母だけでなく、幼年時代も失ってしまう。彼は8歳で警察沙汰を起こすようになり 、近所の子どもたちと万引きし、集団強盗となり、ついには殺人事件にまで関わって しまう。真の神を知らない彼は、人間らしさを失っていた。それから少年院、刑務所 を転々とするが、十代の後半で釈放に向けて働くプログラムに従事したとき、老年の クリスチャン夫妻のところに下宿する。この期間にポールは、「青年をキリストへ」 の集会に参加し、憎しみに支配されていた自分がイエスによって赦されるという経験 をした。そのことを通して、赦す心も与えられ、父なる神様から愛されていることを 知る。彼の人生は修復されたのだ。一方、1963年5月、小学校教師だったマーガレット は、落雷事故に遭い、体調不良が増して、仕事は辞めざるを得なくなった。翌年の 1964年、マーガレットはポールと出会い、結婚を決めた時に、二人で海辺を歩いてい るとあることに気づく。砂の上の自分たちの足跡が、帰り道には波に洗い流され、一 人の足跡しか残っていなかった。それを見たポールが言った。「二人の上に最も困難 な時がやってきたら、その時こそ、イエス様が僕たち二人を背負い、抱いてくださる 時なんだよ。僕たちが、主を信頼する限りね」と。ポールはマーガレットを抱きかか え、くるくると回った。このとき、マーガレットはある詩を書きあげる。それが、「 あしあと」(英語の原題「Footprints」)であった。
 あしあと   
ある夜、わたしは夢を見た。
わたしは、主とともに、なぎさを歩いていた。
暗い夜空に、これまでのわたしの人生が映し出された。
どの光景にも、砂の上にふたりのあしあとが残されていた。
lつはわたしのあしあと、もうlつは主のあしあとであった。

これまでの人生の最後の光景が映し出されたとき、
わたしは、砂の上のあしあとに目を留めた。
そこにはlつのあしあとしかなかった。
わたしの人生でいちばんつらく、悲しい時だった。

このことがいつもわたしの心を乱していたので、
わたしはその悩みについて主にお尋ねした。
「主よ。わたしがあなたに従うと決‥心したとき、
あなたは、すべての道において、わたしとともに歩み、
わたしと語り合ってくだきると約束されました。
それなのに、わたしの人生のいちばんつらい時、
ひとりのあしあとしかなかったのです。
いちばんあなたを必要としたときに、
あなたが、なぜ、わたしを捨てられたのか、
わたしにはわかりません。」

主は、ささやかれた。
「わたしの大切な子よ。
わたしは、あなたを愛している。
あなたを決して捨てたりはしない。
ましてや、苦しみや試みの時に。
あしあとがひとつだったとき、
わたしはあなたを背負って歩いていた。」 
マーガレット・パワーズ作

 翌年の1965年、結婚してからもマーガレットは詩を書き続けるが、1980年、バンクー バーに引越す際、運送屋が依頼した荷物をなくしたまま倒産してしまう。その荷物の 中に、マーガレットが書きためた詩が全部入っていた。以降、二人の知らないところ で、詩「あしあと」が、作者不詳とされながら、多くの人々に流布し、感動を与え続 ける。自称作者までが現れるが、ある時、偶然に二人はこの詩と出会う。1989年、二 人は娘のポーラと教会学校の子どもたちとピクニックに出かけるが、娘のポーラが誤 って高さ20mの滝を落ちてしまう。そのとき、父・ポールも持病の心臓発作を起こす。 二人とも一命は取り留めるが、入院中のポールに、ひとりの看護師が来て祈ったあと 、こう話しかけた。「このカードに書かれた詩をお読みすれば、励ましになるかと思 うのですが……」と。そしてカードを取り出して読み出したのが「あしあと」だった 。看護師は、読み終えると「私はこの詩の作者を知りません。作者不明なのです」と 。ポールは弱々しく手を上げて言った。「私は知っています。作者をとてもよく知っ ています。……私の妻です」と。  それからのマーガレットは、自分が原作者であることを主張するが、証拠物件がなく て信用してもらえず、いら立っていた。しかし、彼女がその苦々しい思いを捨て去り 、「すべてを主なる神さまにゆだねよう」と決心すると、心と生活に平安が帰ってく る。すると間もなく、結婚アルバムにその詩のオリジナルをはさんでいたのを思い出 した。そして、彼女こそが「あしあと」の真の作者であると認められることになった 。人生の最も弱い時に、イエス様は私たちを抱きかかえて歩いてくださる。そして、 人々に愛と希望とを分け与えられるように、人生を修復してくださるのだ。

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